Magic: The Gathering

Oriental Gold

This Novel is written by Shurey


Prologue / Sec.1
第一章
胎動

第?話 鳳 梨沙


Serra Angel

[Summon Angel]
4/4
Flying
Attacking does not cause Serra Angel to tap.

瓦解都市

 星歴2302年8月、黄金の神国の本島、珠金島の北西部地域を暴風雨が襲った。
 鳳梨沙(おおとり・りさ)は身震いをして目を覚まし、慌てて月明かりのない空を遠く見上げた。微かにマナの力を感じたのだろう。それも邪悪な意思を秘めた忌まわしきマナの微動である。
 朝を迎え、梨沙の進言により各方面と連絡を取り合うことにした。僧侶たちはお互いの精神感応の能力を使って遠方との連絡をやり取りする。また、Teleport の使える者が集められ各地へ送られることとなった。行きは梨沙たち祈祷師や呪術師などの力を借りるしかないが、帰りは梨沙たちのマナの波動を便りに戻ってくるのだ。
「気を付けてね、涼」
 どうしても悪い胸騒ぎが収まらない梨沙は悲しげな顔で、鳳涼(おおとり・りょう)の背中を見ていた。
「大丈夫だよ。今はあの時ほど強いマナを感じない。どこにいても、梨沙のマナにたどり着ける」
 幼なじみの梨沙を振り返り、屈託のない笑顔で答えて、涼も探索隊の一人として送り出された。
 調査を続ける内、北にある北斗(ほくと)と西の海岸近くにある西海(さいかい)の町が完全に壊滅していることが分かった。
 神王雷紫光(いかづち・しこう)は即座に一軍を発し、町の復旧に向かわせる。各地の駐留軍が戦時同様の緊張感を持って行動を始めた。
 だが、調査が進むにつれ自然の災害ではないということが分かってきた。
 破壊された北斗と西海はそのどちらもが突然の暴風によって見る影もない有様だった。しかも、その暴風は町の中だけを綺麗に破壊して行ったのだ。どの町も城壁はおろか、外部の草原にも被害の爪痕は残されていなかったのである。
 そのことは、次第に首都神月でも噂されるようになった。その日の内に生き残った一人の少年が発見されて、その話題はますます熱を帯びて語られるようになった。
 その少年は精神状態が極めて不安定のため、外部から隔離するために魔導学院の寄宿舎の一室にかくまわれることとなる。その世話をするために、沙蘭と茜が抜擢された。
 少年は新(シン)と言った。2つの町の唯一人の生き残りだった。瓦礫の下から発見されたときはぐったりとしていて虫の息。その時に何とか名前だけは聞き出したものの、以来一言も話さなくなってしまった。ようやく体調は回復したが、ベッドの上でただ窓の外を見ている日々が続くのだった。まだ、5才か6才の彼に現実は厳しく心に影を落としていたのだ。

 事件から1週間、2つの町へ派遣された第一の軍勢が戻ってきた。第2陣も既に復旧作業を始めており、第3陣の準備で神月も慌ただしかった。
 第1陣を指揮していたのは、神国の覇王と呼ばれる雷将星(いかづち・しょうせい)である。彼は神王の実弟で、神国の四軍を統べる四将軍の一人であった。
 将星は軽装の鎧を身につけたまま、足早に王宮の奥へと入っていった。
 紫光や側近たちがそれを待ちかまえていた。紫光は将星の労をねぎらい席を勧めた。
 将星の報告によって、その被害の状況は生々しく語られる。町の中に建っていたものは全てなぎ倒され、城壁に近い周囲から中央に向かって渦を巻いているように見えたという。
「先月の深海村といい、今回の2つの町の事件といい。奇妙なことが続くものよ」
「明らかに魔力(マナ)の存在を感じる」
「だが、精霊などの仕業と言うことはないのだろうか」
「同時に二つの町があんなことになるとは、とても自然の力とは思えぬ」
「警戒してしかるべきだ。神月も特に警戒をせねば」
 軍を総動員して、各地の警備が強化されることとなった。しばらくは2つの町も復旧どころではなさそうだ。
 各地に軍勢が振り分けられ、神月も24時間の厳戒態勢が布かれることが決定した。だが、異変はすぐに訪れた。
 先日壊滅した2つの町に、蜃気楼の都市が現れたのである。その急報が王宮に届けられ、側近たちが再度召集され、慌ただしく会議が開かれた。
 火急に紫光神王自らが親衛軍を率いて昇龍山の北にある町、北斗を目指すこととなった。親衛軍とは言っても、実際には12名の精鋭で構成されている。そのため、神国の四軍の1つ、玄武の軍を預かる将星も北方の警備に散っていた軍勢を召集してその補助に当たることとなった。
 西の町、西海にも四軍の1つ、白虎の軍が召集することになった。
 このとき、紫光は魔導学院の四天王、鳳涼(おおとり・りょう)、隼丈(はやぶさ・じょう)、剣忍(つるぎ・しのぶ)ら3人も連れて行くことにした。
 親衛軍と抜擢された三人は、再び梨沙たちの力で次々と北斗の町へ送り出されて行く。
 そして、彼らは城壁の向こうにそびえる幻の都市をはっきりとその目にしたのである。石積みの堅牢な高層建築が立ち並び、奥には優雅な丸みを帯びた屋根を持つ宮殿が見えている。それらは人を寄せ付けない威容をたたえ、風が吹くとその姿が左右に揺らぐのだった。

 親衛軍が出発し、続いて玄武と白虎の軍が出発すると、神月は重い空気に包まれていた。青龍と朱雀の軍が各地の警備から戻って集合しつつあった。
 神月に残っている魔導師たちが鳳星(おおとり・せい)の指揮の元、城壁の各所で魔法への警戒を行っていた。
 魔導学院でも梨沙が院生を指揮し、鷲重継ら今年の卒業生たちも応援に駆けつけ、大事に備える。
 そして、事態は悪い方へと進み始めていた。


昇龍三怪

 神月の北にある昇龍山、その頂は細くとがっていて安息できる場所はない。その頂上に3人の人影があった。
しかし、よく見ると人と思える人影は1つしかなかった。その一人は明らかに空に羽ばたく大きな羽を持っていた。大きな爪のある足でしっかりと岩をつかんでいる。
 もう一人は大きな背中から頭に向かってたてがみのようなものがあり、その顔は虎とおぼしきものだった。鋭い眼光、太い牙が並び、岩をも砕く鉄の鉤爪を持っていた。
 そして、月光の光に浮かぶのは絶世の美女かと、誰もが一瞬の間に心を奪われる容姿端麗の奇怪な人であった。その体の右半身はは虫類のような醜さであったのだ。赤黒い病気に冒されたような肌は、堅く乾いている。右腕は女性のシルエットをしながら、その先端には鋭く長い爪が血の色に輝いていた。
「ロムル、下の様子はどうだ」
 怪異な美女、ラムザが大きな羽を持つ鳥人に尋ねていた。
 ロムルは頂から下を覗き込んだ。普通の人間には町の外郭が丸く見えるだけだが、この鳥人の眼には人の大まかな動きが見えているのだ。
「城壁の中は兵隊で埋め尽くされている。もう、集まってくる様子はないな」
「やっと、奴らを血祭りにできるな。やるんだろ?ラムザ」
 いかにも残忍な笑みを浮かべながら両手の戦斧を打ち合わせ、怪女ラムザを見やる。
「焦るなラゴル。ロムルに下まで連れていってもらったら十分に好きにすれば良い。ロムル、そろそろ降りるところを探してよ」
「ああ、探している。人の動きが多くてな。だが、見当はつけてある。行くかい」
「いや、まだだ、月が明るすぎる。次にあそこの大きな雲が来たら行くぞ。それまで待て」
 両手の大斧を今にも振り下ろしそうな虎男ラゴルの気勢をやわらげようと、彼にその美しい笑顔まで見せる。
「ああ、早くやりてぇ。へへへへへっ、ひひっ」
 ラゴルの不気味な声が風に乗って当たりに広がっていく。それを怪異な二人が心地よさそうに聴いているのだった。

 鳳梨沙は不意に顔を上げた。風の中に妙な妖気を感じていた。
 そして、もう一人、病室にいた少年が突然暴れ出したのだ。病室から逃げ出そうと、必死で沙蘭と茜の腕を振りほどこうともがいている。
「ど、どうしたの!シン!落ち着いて!シン!」
 沙蘭もあらん限りの力で少年の体にしがみつく。勢いがついて3人はドアに突き当たり、その小さなガラス窓が飛び散った。
 すぐに、鷲重継(わし・しげつぐ)と隼翔(はやぶさ・しょう)がやってきて、新を押さえつけた。
「だめだ!逃げないと、みんな死ぬ。だめだ!」
 少年は狂ったようにそう言うばかりで、誰の声も耳に入らないようだった。
「来る!緑の嵐が、人を吸い込んでいく・・・」
「緑の嵐・・・?緑・・・」
 重継は少年のその言葉を繰り返しながら、一つの思いがけないことに突き当たっていた。
「まさか・・・」
 そう呟きながら立ち上がると、重継は走ってその部屋を出て行ってしまった。
 その行き先は梨沙のいる礼祭堂であった。
「どうしました。何かあったのですか?」
 彼の異様に興奮した姿に、梨沙も眼を見張って驚いた。
「少年が、あの少年が事件のことを思い出したんだ。今、それで逃げようとして暴れていた。そして、緑の嵐が来るって、そう言ったんだ」
「緑の?嵐・・・」
 重継は肩で息をしながら彼女の答えを待った。果たして自分と同じ答えだろうか。
「まさか、Cyclone(サイクロン)!」
 その答えに重継も力強くうなづいた。古の狂乱の牙がこの町をも狙っているのだろうか。
 それを確かめるためにも、彼女は少年と話をしてみようと思い、病室へと急いだ。
 病室では未だに暴れる新を駆けつけた幾人かの男たちが取り押さえていた。
「どうしたの?」
 その様子に驚いて、梨沙が声を上げると、少年は我に返ったように彼女の顔を見つめて涙を流した。
 急に力が抜けたようにおとなしくなった少年を見て、梨沙が彼を放すように命じる。すると、少年は彼女に抱きついて泣き出した。
「ねぇ、私に教えて?あなたは何を見たの?それとも、あなたは未来を見ているの?」
 そういいながら、梨沙は少年の頭をなでている。そして、少年の言葉を待った。
 少年はどうやら、未来を透視する能力を持って生まれたらしい。ということは、今も未来を予知しているのである。
 寒気を覚えた梨沙は窓の外にある月を見つめた。その月は徐々に薄い雲に見えなくなっていく。
 そして、ついに昇龍山の3怪人が動き出す時がやってきた。月は見る見るうちに厚い雲の中へと消えて行く。
 右半身が蛇のようにも見える美女ラムザと上半身がモヒカン虎のラゴルは、大鷲の羽と大きな鉤爪を持ったロムルの足につかまって昇龍山の頂を離れた。
 月影に紛れて、3人は神月に向かって降下して行く。彼らの目は獲物を見つけた獣のようであった。真っ直ぐに王宮の前庭に駐屯している青龍の軍の直中に降下する。
 虎男のラゴルは両手の戦斧を振り下ろしながら真っ先に軍勢に飛び込んだ。そして、屍となった兵士の上にラムザが降り立った。その姿はこの状態においてさえ堕天使の降臨を思わせるのだった。
 が、一瞬気を取られた兵士たちを空からロムルの鉤爪が襲い、ひるんだところをラゴルの戦斧がとどめの一撃を与えていく。ともかく、ラゴルの動きは止まらなかった。重い2本の戦斧を軽々と振り回し、一撃で次々と兵士を屍に変えていく。その様子は神が怒りの雷を振るうようでもあった。
 次第に状況を把握し始めた兵士たちは、武器を持って応戦し始めた。
 それを見てラムザが次々と呪文を唱える。2体の Elvish Scout(エルフの偵察員)が彼女の両脇を護衛し、Llanowar Elves(ラノワールのエルフ)と Thallid(キノコ人間)がそれぞれ2体づつ暴れ出す。Llanowar Elves と Thallid は倒しても倒しても次々と現れる。
 このとき既に大きな呪文が1つ唱えられていた。それは Creature の血を吸って力を蓄えていくのだった。

「この感じ・・!まさか!」
 梨沙は少年を抱き留めながらラムザの発する魔法の微動を感じていた。それはその場にいた重継や沙蘭も感じていた。
 シンの体がますます恐怖に震え、梨沙にさらに強くしがみつく。
「いけない!このままじゃ、みんな・・・」
 梨沙も両腕に力を込めて少年を抱きしめながら、大きく首を振った。そして、力の波が巨大なうねりとなった。
 それはラムザが Cyclone を唱えた瞬間だった。彼女を中心にした渦は次々と兵士を巻き込みながら広がっていく。そして、その中心に最初に召喚された巨大な生物が現れた。それは自らを犠牲にした Creature と Cyclone によって死んだ命を力にする Lhurgoyf(ルーゴイフ)だったのだ。その力は次々と生まれる犠牲によってさらに力を増していく。
「ふふっ、死の恐怖におびえなさい。誰一人生かしておかないからね」
 ラムザの妖艶な口元が快感に歪む。
 Cyclone は徐々にふくらみ、神月を完全に包み込んだ。外側は回転も激しく壁のように全てを遮断する。しかし、中心に行くほど風は緩やかになり、その中心は完全な無風であった。
 ラムザたちはその中心に陣取り、風の圧力を避けて逃げて来る者を迎えては殺すという残虐な行為に及んでいた。
 その風に大きなトンネルが開いた。Mahamoti Djinn 身を挺して風を引き裂く。それは鷲重継の操る Creature だった。鳳梨沙が仲間を引き連れてやってきたのだ。
「止めなさい!今すぐ呪文を消すのです」
 凛とした声が響く。
「フフフ、バカをお言いでないよ、お嬢さん。その口を引き裂いてあげるよ」
 ラムザは楽しげにそういうと、ラゴルとロムルに指示を与える。
 鵺夜叉(ぬえ・やしゃ)と鸞澪輝(らん・れいき)がそれを迎え撃つ。
 梨沙と重継がラムザに対する。呪文を使うためにラムザが Cyclone を消した。その次の瞬間、Dance of Many の呪文によってもう一体の Lhurgoyf が現れた。
「そう言うこと。Fireball!」
 梨沙は渾身の Fireball を打って、すぐに Serra Angel と Keldon Warlord を召喚した。Lhurgoyf 2体はかなりの強敵であった。二人がかりで使える Creature を出し切っての攻撃もラムザに傷を負わせることができないでいた。
「みじめだねぇ。力はこう使うのさ」
 ラムザは Backfire を Serra Angel に唱える。だが、これは Counterspell にかき消された。こうして時間稼ぎをしている間に、Thallid がラムザを護衛しながら数を増殖させていた。
「行け、Thallid たち」
 ラムザの指示で増殖した Thallid たちが梨沙たちを襲う。澪輝の剣がついにロムルの鉤爪に負けて折れた。夜叉も深手を負い、重継が代わってラゴルと剣を交える。
 Keldon Warlord が次々と Thallid を仕留めていく。だが、Lhurgoyf に対抗するすべを失ってしまった。
「さあ、どうする。かわいいこいつらの餌になるしかないねぇ。遊びはここまでだよ」
 ラムザは毒爪を動かしながら、2体の Lhurgoyf と共に梨沙に迫り、Lhurgoyf の一撃が彼女の体を軽々とはじき飛ばした。
「かわいそうに。私が楽にしてやるよ」
 ラムザが梨沙に近づいたその時、2体の Lhurgoyf が突然消えた。Unsummon の呪文がその1体を消したとき、もう1体は連鎖を起こして消えたのだった。
「何?」
 驚いてラムザが振り返ると、ロムルの背に剣を突き立てる男がいた。
「涼!」
 梨沙が死力を振り絞って彼の名を呼んだ。そして、そのまま気を失ってしまった。いや、安心して気が抜けたのだろう。春菜と沙蘭が駆けつけて、梨沙を抱き起こす。
「待たせたな。貴様ら、絶対にゆるさん。覚悟しな」
 鳳涼(おおとり・りょう)の両眼は怒りの炎に包まれていた。しかし、この時既に最後の呪文がラムザによって唱えられていた。
 涼が次々と Creature をなぎ払う中、ラムザはラゴルに守られながら後退した。そして、悲劇は起こったのである。
 Thallid を全て倒した Keldon Warlord がその剣を振るい、梨沙の心臓を一突きに貫いた。Control Magic がかけられていたのだ。
「梨沙!梨沙ーぁ!」
 涼はすぐに取って返し、春菜と協力して Keldon Warlord を打ち倒した。そして、振り返ったときにはラムザとラゴルの姿は消え去っていた。
 沙蘭もその場に座ったきり動くことができなかった。現実に目前の出来事であったが、到底信じられない、受け入れがたい事実であった。
 春菜の両目にも涙が溢れ、自然と力が抜けて行き、膝を折って泣き伏せる。
 朧の姿も消えていた。この時、彼だけはラムザとラゴルの行動を追っていた。都市の城壁の上に立ち、2匹の悪鬼の影を見据えながら涙が静かに落ちるのだった。
 そして、涼は動かなくなった梨沙の体を抱き起こし、いつまでも強く抱きしめながら、その手をほどこうとはしなかった。いつしか、冷たい雨が彼らの心までも濡らして行く。天からの悲しみの咆哮は温もりさえ感じる。
 梨沙の死は全ての国民の悲しみとなり、ラムザとラゴルは国家を上げて復讐しなければならない相手となった。悲しみは果てしなく深く長く続き、我に返ることさえ許されない夜が続いた。月は厚い雲の向こうから戻ってはこなかった。
 そして、赤い日差しの朝がやってきた。重い悲しみに満ちた朝が、新たな戦乱の世を告げて、さらに赤く空を染め上げて行く。