第一章 | ||
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胎動 |
Hong Kong | [Land] |
: Add to your mana pool. ,, Sacrifice Hong Kong: Put a Dragon token into play. Treat this token as a 5/5 black creature with flying, trample. |
流王はともかく、一目散に廊下を走り抜けた。しかし、彼は大きなことを忘れていた。
階段を駆け上がって来たところを、エルス皇子とアルフに切りつけられた。
「もう、逃げることはできないぞ」
追われて、再び地下に戻った流王は Lightning Bolt を放って、階段を砕いた。しばらくして、少し離れたところで、地面が割れた。地下から天井を砕いたのだ。そして、その穴から気球が舞い上がった。
「あれは!」
「まさか、あんなものまで・・・」
エルスとアルフはその Goblin
Balloon Brigade を見上げているしかなかった。気球はどんどんと風に乗って東の方角へと消えていった。
「火をたけ!下へ降りるぞ!」
明かりをたかなくては崩れた階段の下は闇の中だ。兵士達が松明を手にロープを体に結んで、下へ降りて行く。
龍牙とリンダが地上に引き上げられるまで、随分と時間が掛かった。2人は流王を取り逃がしたことについてはさほど興味がなさそうであった。
「一体、何があったんです。ひどく揺れたし、あの音は」
エルス皇子が龍牙に尋ねた。
「エルガーだ。彼が俺達を救ったのだ」
「そう、彼の力が龍牙に引き継がれたのね・・・」
リンダは思い出しながら、膝に顔を埋めた。もはや、彼女の瞳に映るのは、懐かしい思い出の数々だけであった。そして、その一つ一つをゆっくりと心の底へ沈めて行くことで、現実をあがなうのだろう。
ついに、オリエンタル・ランドの一つ Hong Kong がエルガーから龍牙に受け継がれた。黒の力を生み出すことのできる強力な Land であった。
「そんなことが・・・」
話には聞いたことはあったが、実際に力を受け継いだり、また、オリエンタル・ランドが実在することすら目の当たりにしたことのないアルフにとっては夢のようなできごとだ。
エルスもまた、想像を絶する事態に空を見上げたまま押し黙ってしまっていた。
しかし、一番困惑していたのは龍牙自身であった。エルガーが後継者に自分を選んだ事実。そして、あの時のリンダの瞳は自分に向けられたものではなかった。あれほど、心がときめき、また、悲しかったことがあったろうか。今も、どうにもならない情念が彼の体の中を駆けめぐっている。何か大きな力に突き動かされて、止めることの出来ない事態が起こる予感がしていた。
「どうして・・・、俺の中に・・・」
龍牙は頭の中で反すうしていた。人の想いは簡単に消えることはない。まるで、Hong Kong が一つの人格を持っていたかのように、彼の心を暖かく包み込んでいたのも事実だ。その温もりを感じられるからこそ、同居する想いが自分の中で反発しないかと恐れを覚える。彼が、エルガーが託したモノは果たしてこれだけだったのか。それとも・・・。いや、余計なことは考えるまい。と、空を見上げる。
月が雲の間から輝かしい姿を現した。しばらくの間、彼らの心を癒すようにその優しい光りを送り続けるのだった。
大きな歴史のうねりが今確実に始まろうとしている。大陸全土にあまねく照らされた光りの下に、伝説がよみがえろうとしていた。この事件はその1歩目に違いなかった。