Magic: The Gathering

Oriental Gold

This Novel is written by Shurey


Prologue / Sec.1
第一章
胎動

第五話 隼 茜


Mox Ruby

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照月の館

 隼茜(はやぶさ・あかね)は、鐵紫苑(くろがね・しおん)、魁霞(さきがけ・かすみ)と共に旅をしていた。
 彼女たちは本島北部から出発して、ようやく昇龍山の近くまで戻ってきたところだった。
 彼女たちもまた、宝玉の手がかりを得るために旅をしていた。
 茜は相変わらずのマイペースぶりで、旅の計画もなく気の向くままに進んでいた。
 紫苑は武具の技工士の家系である鐵家に生まれながら、魔導学院でも次期四天王は間違いないと目されているほど卓越した魔法の使い手だ。常に一行の後ろにいながら、いざ危機が迫ると彼女らの前に立つ頼もしい男だ。携行している武器や装具は自らの手による物らしく、誰にも触らせないくらい大切にしていた。
 魁霞は朧(おぼろ)の双子の妹だ。彼女は華奢で物静かであるが、体術、魔法、勉学となんでもこなしてしまう秀才肌を持っている。また、それらをひけらかさないところに茜は心酔していた。
 これほど頼もしい2人と一緒なので茜は何もしなくて良かった。
 それでも、夕食の確保のための狩りは自ら進んで行っていた。得意でない夕食作りも何とか2人に食べてもらえるものができるようになっていた。これも霞のおかげである。
 途中、ゴブリンの潜む森に遭遇したが、紫苑の電光石火の魔法攻撃と霞の鉄壁の体術に守られながら、自分の無力さを知らされたのだった。
 それからは時間を見つけては霞に体術の基礎を習い、紫苑から高等魔法の知識を学んでいた。

 ある晴れた日のことだった。
 3人は丘陵を越えるために、人通りのある街道を使って坂道を登っていた。街道とは行っても、人や馬が踏み歩いてできたもので、周りに人の住む場所があるわけではなく。草原や林の中続く硬い道なのだ。
 そんな彼らの目の前に重い荷物を背負った小柄な老人がいた。少し進んでは立ち止まり、また歩き出す。
 すぐに彼らは追いついた。見ると、額に吹き出した汗が目にしみて、立ち止まっては顔を吹いていた。それに重そうな荷物のせいで、肩が今にもつぶれそうだ。
「おじいさん、どこまで行くのぉ?」
 茜はお祖父さんの荷物を横から支えながらそう尋ねてみた。
 お祖父さんはニカッと大きな口を横に開いて笑った。
「おお、かわいいのう。ワシの孫よりかわいいのう」
「まあ、ありがとう」
 照れている茜が手をゆるめても、確かな足取りでお祖父さんは歩みを止めなかった。
 あわてて、お祖父さんの横へ並ぶと、ちらっとお祖父さんの目が動き、下から上まで茜を眺める。
「うむ、じゃが、もうちっと、胸が欲しいのぅ」
 そう言って、また、前を見て進む。
「うっ・・・」
 茜は思わず手を離して、立ちつくしてしまった。
 紫苑と霞が彼女に追いついた。
「どうしたの?」
「えっ?ええ、いやぁ」
 霞の問いにごまかす茜。結構、悔しかったらしい。
「あっ!」
 紫苑が声を上げた。すぐに大きな音が響いたかと思うと、お祖父さんが倒れて、荷物が草むらに転がっていた。
 3人が駆け寄って、お祖父さんを抱き起こす。
「大丈夫?変なこと言うからよぉ」
 茜はここぞとばかりに言い聞かせる。
「ち、ちいさいもんはちいさいんじゃ」
 息を切らせながら負けん気だけは強かった。
「な、なんの話ですか?」
 紫苑が聞くと、茜がグッと怖い顔でにらむのだった。

 草むらに落ちた荷物の中身がバラバラになっていた。
 野菜や果物ばかりで、それらを3人で拾い集めた。
 話を聞くと、この先の昇龍山の手前にある村までこれらを届けるというのだ。
 月に二度、その荷物をある家に届けに行くというのだ。
「へぇ、そのおばあさんって、お祖父さんの初恋の人だったりしてぇ」
 茜がからかう。
「ふん、胸は小さいが感は良いみたいじゃ」
「余計なことをぉ」
 また、茜の形相が変わると、紫苑が思わず笑いを堪えていた。見ると、霞まで笑っていた。
「まあ、似とることは似とるが・・・。声しか聞いたことがないからのぅ」
 記憶を呼び覚ますようにお祖父さんは目をつぶって空を見上げた。彼の耳にはそのおばあさんの声が聞こえているのだろう。
「声?それだけ?」
「そうじゃ。いや、最初に一目だけ見たことがある。いやいや、現実には手しか見たことがないがのぅ」
「手だけですか?」
 紫苑も興味を覚えたようだ。
「そう、その村に野菜を売りに行って、みんなに断られたんじゃが、その家だけはよろこんで迎えてくれた」
「へぇ・・・」
 茜の返事はめんどくさそうに聞こえた。興味が長続きしないらしい。
「じゃが、不思議なものでのう。夢を見たんじゃよ。そのばあさんが、野菜を売りに来て欲しいって言うもんじゃから、その村へ行ってみたら、確かにその家があったんじゃ」
 お祖父さんは、孫の興味を引くために昔話をしているような口調になってきた。
「じゃあ、夢の中でおばあさんに会って、それで村へ行ったの?」
 茜もすぐに興味を取り戻した。お祖父さんはそれを満足そうに見返している。
「そうじゃ。だから、夢の中で一度会っている。だが、実際には顔を見せてはくれん。それになぁ・・・」
「そ、それにぃ?」
「家の中には、どうしても入ることができんのじゃ」
「ど、どうしても?」
「そう、どうしてもじゃ。それに、ばあさんも家から出られないらしい」
 霞と紫苑は腕組みをして聞いていたが、茜は楽しそうにお祖父さんににじり寄っていた。
「それで、野菜を売りに来てって言ったのかしら?」
「そうじゃろうな。あんた、賢いのう」
 お祖父さんは満足そうにガハハと大声で笑った。
 そこで照れている茜は脳天気かも知れない。
「それは実に不思議ですね。何か訳がありそうで・・・」
 紫苑が言い終わらないまでに、お祖父さんが突然奇声を上げた。
「そうじゃ、そうじゃ。思い出した!」
 その声の大きさに驚いて、茜は後ろへ尻餅をついた。
「今度、三人のお客を連れて来るように言われておった。途中で知り合った三人を道案内するように頼まれておった」
 三人は顔を見合わせて驚いた。
「それはあんたらのことじゃな」
 茜が首を横に振った。
「私、知らないわよ。そんな約束してないもの」
「そうじゃなくて、これは予言だよ」
 紫苑が落ち着いて言う。おばあさんは彼らの来ることを知っていたのだ。
「じゃあ、行ってみる?」
 茜の決断は早かった。もう立ち上がって、お祖父さんの荷物を持ち上げようとしていた。
「行くしかなさそうだ」
 紫苑が手を貸して、二人で荷物をぶら下げて持つ。
「仕方ないわね。導かれているのよ」
 霞も異存はなかった。
「そうとなれば、急いで行くとしよう」
 お祖父さんも立ち上がって、元気に歩き出した。
 こうして、4人となった一行は照月(しょうげつ)という村へ向かって出発したのだった。

 さて、照月村までは2時間ほどで着くことができた。
 しかし、実に閑散とした村だった。まるで生活の匂いのない村だった。どうやら、人はいるらしい。しかし、話し声も聞こえなければ、その姿も見えなかった。
 いや、どうも彼らの姿を見て隠れてしまったようだ。
 物陰から送られる数々の視線が、奇妙にまとわりつく。
「お祖父さん、何か変なことしたんじゃない?」
 茜は先頭を歩く源太爺さんに聞いてみた。
「何を言うか、ワシぁなんもせんぞ。あの館へ野菜を売りに行ってから、いつもこうじゃよ」
 強がっているようだが、お祖父さんは少し悲しそうな表情を見せた。
「昔はもっと活気があった。ワシが若い頃はな。そこの酒場なんぞ、いつも誰かが喧嘩をしておった」
 その酒場は、看板もとれかかり、扉は半分開いたままであった。
「あの八百屋の主人は一番声が大きかった。村の入り口まで声が聞こえていたもんさ」
 木の台だけが並んでいる店が八百屋らしい。
「いつからこんなになっちまったのか・・・」
 その声は本当に寂しそうだった・・・。
「知ってる人はいないの?」
 茜はなんとか明るい話にならないかと思った。源太爺さんは立ち止まって振り返った。
「ここはワシの生まれた村さ。若い頃、村を飛び出したまでは覚えているがな」
「じゃあ、あのおばあさんも?」
「ああ、本当に初恋の人かも知れんなぁ・・・。懐かしい声に思えるわい」
 そう言ってきびすを返し、再び歩き始めた。すると人影がその前に立ちはだかる。
「早介(そうすけ)、またか」
 源太は幼なじみの姿を見定めて言った。
 年は源太と同じであったが、背筋がシャキッとしていて少々若く見える。白い半袖のシャツと膝までのズボンが妙に似合っていて、それも若々しい原因だろう。頭はすっかりと髪の毛をなくしてはいるが、白い眉と蓄えられた白いあごひげ、そして、何より射るような鋭い眼光があった。
「また来たのか。何をしに来ているかは知らんが、あの教会には近づくなと何度言わせる」
 その強い口調の中にも親友を気遣う心があふれているようだった。
「ふん、これがワシの使命じゃ。神の啓示に従うまで・・・」
「源太、おまえは呪われた教会の本当の悲劇を知らんのだよ。あれ、何人も寄せ付けぬ。入ることも出ることもできない、魂の監獄じゃ」
「その囚われの魂が救えるかもしれん。そう信じているのだ」
 源太はその信念の元にお婆さんの家を訪れているのだ。
「今日は悪い予感がする。行かぬ方がよい」
 早介の意味ありげな言葉に、茜が霞と紫苑を振り返る。
 霞は大丈夫と言うように、にこっと笑って見せた。紫苑もうなずいている。
「ふん、お前に言われんでも、ワシはワシの思った通りにしか動かん。どけ!」
 源太は彼より一回り大きな早介の体を払いのけて、ズンズンと歩き出した。
 茜も慌ててその後を追う。
「い、いいの?あんなこと言って?」
「いつものことじゃ、気にせんでいい」
 それからは源太も無言になった。茜もシュンとして静かになった。
 どうもこの村の雰囲気は私たちを歓迎していない。その気持ちが決定的になっただけだったのだ。

 前方の小高い場所に一件の背の高い建物が見えてきた。
 そこもまた、独特の不思議な空気を持っていた。
 壁を覆っているツタは屋根まで届き、朽ち果てたようにもろく見えた。
 土壁も所々に小さな穴があいているが、建物そのものは堅牢な石を途中まで積み上げて補強されている。
「ここは教会ですか?」
 霞が小さなステンドグラスを見つけて言った。
「昔は牙羅(ガーラ)神教の華留羅(カルラ)様が祀られておった。じゃが、大聖変(だいせいへん)によって信者がいなくなってしまったからのう」
「あ、それ、習ったことあるぅ」
 茜には歴史の重みも形無しの軽さだった。ようやく口が開けて気が抜けたのだろうか。
 


鋭意執筆中!